日本陸上競技連盟史
2009年度
2009年度
平成21年4月~平成22年3月
ボルト旋風のベルリン世界選手権
村上がやり投史に残る銅メダル
前年の北京五輪を経て、3年後にロンドン五輪を見据えた年。2年に1度の世界選手権は、地元開催の大阪大会をステップにドイツの首都・ベルリンへ。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)旋風が吹き荒れ、2025年現在も破られていない100m9秒58、200m19秒19の世界新記録などに沸いたその第12回大会は、日本やり投史に残る金字塔を打ち立てる場所になった。村上幸史(スズキ)が男子やり投で銅メダルを獲得したのである。
29歳の村上は日本選手権10連覇を決めて3大会連続の出場。五輪を含めた5度目の世界大会で初めて予選を通過した。天候も味方に、予選2投目で自己記録を5年ぶりに1m39cm伸ばし、日本歴代2位の83m10を記録。予選通過ラインを大きく超え、出場選手の中で一番にピットから引き上げた。決勝は大会最終日で日本選手団のトリだ。これも2投目。「ウォー」と自然に発した叫びとともに、低い角度で鋭く跳んだやりが82m97へ到達した。大会直前、日本のトップスロワーが集まって村上と合宿。村上は「やり投仲間に何かを与えられたんじゃないかと思います」と語った。
尾崎好美が銀、男子4継8大会連続入賞
日本選手がベルリンで勝ち取ったもう一つのメダルが尾崎好美(第一生命)による女子マラソン銀メダル。大会最終日を前に日本勢はメダルなし。尾崎は主導権を握り、争いを3人に絞ったのち40kmでスパート。白雪(中国)との争いには敗れたものの、1991年東京大会での恩師・山下佐知子監督と同じ色のメダルを手に「超えられなかったのは残念ですけど、追いつけました」とほほ笑んだ。
メダルをのぞく日本勢の入賞は5。1年前の北京大会で3位入線(のちにジャマイカ選手のドーピングで2位に繰り上がり)の男子4×100mリレーが、江里口匡史(早大)、塚原直貴(富士通)、高平慎士(富士通)、藤光謙司(セーレン)とつないで4位に。五輪を含む世界大会の連続入賞を「8」に伸ばしている。塚原は100mで準決勝進出を果たした。
男子マラソンは佐藤敦之(中国電力)が6位に食い込み、日本勢6連続入賞となった。佐藤自身は終盤に粘り強く順位を上げ、北京五輪「最下位」の雪辱を果たしている。女子マラソンでは加納由理(セカンドウィンドAC)が7位を占め、この種目で日本勢の連続入賞を「7」に伸ばした。
女子10000mでは中村友梨香(天満屋)が日本歴代4位のタイムで7位に。その後の5000mでも予選、決勝(12位)ともに快走し、全レースで自己新の快調さだった。社会人1年目の渕瀬真寿美(大塚製薬)による女子20km競歩7位(のちに6位へ繰り上がり)は、女子競歩初の世界大会入賞である。ユニバーシアード銀や大阪大会27位をステップに、1月には日本新記録の1時間28分03秒を樹立して充実していた。
上昇機運の種目で日本新が続々
女子短距離を福島がけん引
福島千里(北海道ハイテクAC)を中心に世界に挑み続ける女子短距離が、また一歩前へ進んだ。
福島は100m、200mの日本記録を次々と更新する。5月3日の第43回静岡国際200mで23秒14(+1.5)、鳥取市の布勢総合運動公園陸上競技場で行われた布勢スプリント挑戦記録会100mで11秒28(+0.8)、11秒24(+1.9)。さらに、6月25日から28日の日程で広島市の広島ビッグアーチ(広島広域公園陸上競技場)で開催された第93回日本選手権では200mで23秒00(+1.7)へ、大きく前進した。
加えて、同学年の髙橋萌木子(平成国大)も静岡国際200mで23秒15と従来の日本記録を上回る。7月7日~12日にセルビア・ベオグラードで開催されたユニバーシアードの陸上競技では、女子100mで日本初のメダル(銀)を獲得。
そして、その2人を擁する女子4×100mリレーは5月9日の国際グランプリ大阪で43秒58の日本新記録を打ち立て、個人では福島と髙橋、そしてリレー2種目で世界選手権に進んだ。
4月に石川県輪島市で行われた第93回日本選手権50km競歩では、山﨑勇喜(長谷川体育施設)が3時間40分12秒の日本新で6連覇を達成した。昨年10月の第47回全日本50km競歩高畠大会(山形・高畠町)で作った3時間41分29秒の日本記録を1分17秒も更新。日本新Vは2年連続となる。
10月には男子800mと男子砲丸投で日本新が誕生した。新潟市の東北電力ビッグスワンスタジアムで行われた第64回国民体育大会の成年男子砲丸投では、兵庫代表として臨んだ山田壮太郎(法大)が18m64をマーク。2006年に畑瀨聡(群馬綜合ガードシステム)が作った従来の日本記録(18m56)を8cm塗り替えた。日本選手権で18m47をプットした際には「日本新は時間の問題」と自ら豪語したが、4ヵ月の足踏み。謙虚な姿勢に立ち戻り、このビッグショットが出た。
10月18日の日体大競歩フィールド記録会では男子800mの横田真人(慶大)が躍動。小野友誠(法大)の日本記録(1分46秒18、1994年)を15年ぶり0.02秒短縮する1分46秒16を叩き出した。ユニバーシアードでは金メダルからと0.06秒差の4位だった横田が、ペースメーカーをつけた「設定レース」の取り組みを生かした。
ユニバーシアードで金丸が400m初の金
短距離の隆興で海外最高成績
世界選手権に先立って、7月上旬にユニバーシアード、世界ユース選手権が開催された。
ユニバーシアード男子400mでは、日本のエース・金丸祐三(法大)がこの種目で日本初の金メダル獲得。参加選手トップの自己記録を携えて臨み、確実に勝利をもぎ取った。ユニバーシアードでの日本勢は「金3、銀6、銅3」の海外大会最高〟の好成績。女子長距離は全員が入賞し、ハーフマラソンでメダルを独占、西原加純(佛教大)が2種目で金・銀を手にした。
日本が得意とする長距離以外にもトラック全体にボリュームがあり、前述した髙橋(女子100m)や横田(男子800m)のほか、男子100mで江里口匡史(早大)が同種目44年ぶりメダル、男子4×400mリレーで銅メダルの活躍があった。
18歳以下の「世界一」を決める世界ユース選手権は7月8日~12日、イタリア・ブレッサノーネで開催され、1走から九鬼巧(和歌山北高)、山縣亮太(修道高・広島)、茅田昂(同)、籾木勝喜(宮崎工高)のオーダーで臨んだ男子メドレーリレー(100m+200m+300m+400m)で銅メダル。メダルは1つだったが、男子100mで山縣4位、九鬼6位とダブル入賞を飾るなど、入賞数は13に達した。
世界選手権後の秋シーズンは、11月10日~14日に第18回アジア選手権(広州)、12月10日~13日に第5回東アジア大会がいずれも中国で開催され、翌年のアジア大会を展望するモードへ。アジア選手権では男子400mハードルの成迫健児(ミズノ)、十種競技の田中宏昌(モンテローザ)、女子400mの丹野麻美(ナチュリル)、3000m障害の辰巳悦加(デオデオ)が優勝。東アジア大会は16種目を日本勢が制して大きな成果を得た。
ジュニアでは女子100mハードルで寺田明日香(北海道ハイテクAC)がジュニア日本記録の13秒05を2度もマークし、ベルリン世界選手権に出場。高校では男子短距離の飯塚翔太(藤枝明誠高・静岡)、同400mハードルの安部孝駿(玉野光南高・岡山)、同走高跳の戸邉直人(専大松戸高・千葉)、同やり投のディーン元気(市尼崎高・兵庫)、女子競歩の岡田久美子(熊谷女高・埼玉)ら、短距離の君嶋愛梨沙(麻里布中・山口)が、各カテゴリーの新記録やそれに準じる活躍を見せた。次世代への起点としても注目される年である。
記事提供:月刊陸上競技
平成21年4月~平成22年3月
ボルト旋風のベルリン世界選手権
村上がやり投史に残る銅メダル
前年の北京五輪を経て、3年後にロンドン五輪を見据えた年。2年に1度の世界選手権は、地元開催の大阪大会をステップにドイツの首都・ベルリンへ。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)旋風が吹き荒れ、2025年現在も破られていない100m9秒58、200m19秒19の世界新記録などに沸いたその第12回大会は、日本やり投史に残る金字塔を打ち立てる場所になった。村上幸史(スズキ)が男子やり投で銅メダルを獲得したのである。
世界選手権 村上幸史 ©月刊陸上競技
29歳の村上は日本選手権10連覇を決めて3大会連続の出場。五輪を含めた5度目の世界大会で初めて予選を通過した。天候も味方に、予選2投目で自己記録を5年ぶりに1m39cm伸ばし、日本歴代2位の83m10を記録。予選通過ラインを大きく超え、出場選手の中で一番にピットから引き上げた。決勝は大会最終日で日本選手団のトリだ。これも2投目。「ウォー」と自然に発した叫びとともに、低い角度で鋭く跳んだやりが82m97へ到達した。大会直前、日本のトップスロワーが集まって村上と合宿。村上は「やり投仲間に何かを与えられたんじゃないかと思います」と語った。
尾崎好美が銀、男子4継8大会連続入賞
日本選手がベルリンで勝ち取ったもう一つのメダルが尾崎好美(第一生命)による女子マラソン銀メダル。大会最終日を前に日本勢はメダルなし。尾崎は主導権を握り、争いを3人に絞ったのち40kmでスパート。白雪(中国)との争いには敗れたものの、1991年東京大会での恩師・山下佐知子監督と同じ色のメダルを手に「超えられなかったのは残念ですけど、追いつけました」とほほ笑んだ。
メダルをのぞく日本勢の入賞は5。1年前の北京大会で3位入線(のちにジャマイカ選手のドーピングで2位に繰り上がり)の男子4×100mリレーが、江里口匡史(早大)、塚原直貴(富士通)、高平慎士(富士通)、藤光謙司(セーレン)とつないで4位に。五輪を含む世界大会の連続入賞を「8」に伸ばしている。塚原は100mで準決勝進出を果たした。
男子マラソンは佐藤敦之(中国電力)が6位に食い込み、日本勢6連続入賞となった。佐藤自身は終盤に粘り強く順位を上げ、北京五輪「最下位」の雪辱を果たしている。女子マラソンでは加納由理(セカンドウィンドAC)が7位を占め、この種目で日本勢の連続入賞を「7」に伸ばした。
女子10000mでは中村友梨香(天満屋)が日本歴代4位のタイムで7位に。その後の5000mでも予選、決勝(12位)ともに快走し、全レースで自己新の快調さだった。社会人1年目の渕瀬真寿美(大塚製薬)による女子20km競歩7位(のちに6位へ繰り上がり)は、女子競歩初の世界大会入賞である。ユニバーシアード銀や大阪大会27位をステップに、1月には日本新記録の1時間28分03秒を樹立して充実していた。
上昇機運の種目で日本新が続々
女子短距離を福島がけん引
福島千里(北海道ハイテクAC)を中心に世界に挑み続ける女子短距離が、また一歩前へ進んだ。
福島は100m、200mの日本記録を次々と更新する。5月3日の第43回静岡国際200mで23秒14(+1.5)、鳥取市の布勢総合運動公園陸上競技場で行われた布勢スプリント挑戦記録会100mで11秒28(+0.8)、11秒24(+1.9)。さらに、6月25日から28日の日程で広島市の広島ビッグアーチ(広島広域公園陸上競技場)で開催された第93回日本選手権では200mで23秒00(+1.7)へ、大きく前進した。
加えて、同学年の髙橋萌木子(平成国大)も静岡国際200mで23秒15と従来の日本記録を上回る。7月7日~12日にセルビア・ベオグラードで開催されたユニバーシアードの陸上競技では、女子100mで日本初のメダル(銀)を獲得。
第43回静岡国際 福島千里 髙橋萌木子 ©月刊陸上競技
そして、その2人を擁する女子4×100mリレーは5月9日の国際グランプリ大阪で43秒58の日本新記録を打ち立て、個人では福島と髙橋、そしてリレー2種目で世界選手権に進んだ。
4月に石川県輪島市で行われた第93回日本選手権50km競歩では、山﨑勇喜(長谷川体育施設)が3時間40分12秒の日本新で6連覇を達成した。昨年10月の第47回全日本50km競歩高畠大会(山形・高畠町)で作った3時間41分29秒の日本記録を1分17秒も更新。日本新Vは2年連続となる。
10月には男子800mと男子砲丸投で日本新が誕生した。新潟市の東北電力ビッグスワンスタジアムで行われた第64回国民体育大会の成年男子砲丸投では、兵庫代表として臨んだ山田壮太郎(法大)が18m64をマーク。2006年に畑瀨聡(群馬綜合ガードシステム)が作った従来の日本記録(18m56)を8cm塗り替えた。日本選手権で18m47をプットした際には「日本新は時間の問題」と自ら豪語したが、4ヵ月の足踏み。謙虚な姿勢に立ち戻り、このビッグショットが出た。
10月18日の日体大競歩フィールド記録会では男子800mの横田真人(慶大)が躍動。小野友誠(法大)の日本記録(1分46秒18、1994年)を15年ぶり0.02秒短縮する1分46秒16を叩き出した。ユニバーシアードでは金メダルからと0.06秒差の4位だった横田が、ペースメーカーをつけた「設定レース」の取り組みを生かした。
ユニバーシアードで金丸が400m初の金
短距離の隆興で海外最高成績
世界選手権に先立って、7月上旬にユニバーシアード、世界ユース選手権が開催された。
ユニバーシアード男子400mでは、日本のエース・金丸祐三(法大)がこの種目で日本初の金メダル獲得。参加選手トップの自己記録を携えて臨み、確実に勝利をもぎ取った。ユニバーシアードでの日本勢は「金3、銀6、銅3」の海外大会最高〟の好成績。女子長距離は全員が入賞し、ハーフマラソンでメダルを独占、西原加純(佛教大)が2種目で金・銀を手にした。
日本が得意とする長距離以外にもトラック全体にボリュームがあり、前述した髙橋(女子100m)や横田(男子800m)のほか、男子100mで江里口匡史(早大)が同種目44年ぶりメダル、男子4×400mリレーで銅メダルの活躍があった。
18歳以下の「世界一」を決める世界ユース選手権は7月8日~12日、イタリア・ブレッサノーネで開催され、1走から九鬼巧(和歌山北高)、山縣亮太(修道高・広島)、茅田昂(同)、籾木勝喜(宮崎工高)のオーダーで臨んだ男子メドレーリレー(100m+200m+300m+400m)で銅メダル。メダルは1つだったが、男子100mで山縣4位、九鬼6位とダブル入賞を飾るなど、入賞数は13に達した。

世界ユース メドレーリレー ©月刊陸上競技
世界選手権後の秋シーズンは、11月10日~14日に第18回アジア選手権(広州)、12月10日~13日に第5回東アジア大会がいずれも中国で開催され、翌年のアジア大会を展望するモードへ。アジア選手権では男子400mハードルの成迫健児(ミズノ)、十種競技の田中宏昌(モンテローザ)、女子400mの丹野麻美(ナチュリル)、3000m障害の辰巳悦加(デオデオ)が優勝。東アジア大会は16種目を日本勢が制して大きな成果を得た。
ジュニアでは女子100mハードルで寺田明日香(北海道ハイテクAC)がジュニア日本記録の13秒05を2度もマークし、ベルリン世界選手権に出場。高校では男子短距離の飯塚翔太(藤枝明誠高・静岡)、同400mハードルの安部孝駿(玉野光南高・岡山)、同走高跳の戸邉直人(専大松戸高・千葉)、同やり投のディーン元気(市尼崎高・兵庫)、女子競歩の岡田久美子(熊谷女高・埼玉)ら、短距離の君嶋愛梨沙(麻里布中・山口)が、各カテゴリーの新記録やそれに準じる活躍を見せた。次世代への起点としても注目される年である。
記事提供:月刊陸上競技


