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日本陸上競技連盟史

2012年度

2012年度
平成24年4月~平成25年3月

オリンピック・イヤー、大盛況の織田記念が先鞭
ディーン84m28、山縣10秒08、大瀬戸・土井の高校新

ロンドン五輪イヤーの屋外シーズンを迎えた途端、ボルテージが一気に上がった。その舞台となったのが、4月29日の開催が恒例となっている第46回織田記念。〝ロンドン世代〟を象徴する2人の選手が躍進した。

1人は男子やり投のディーン元気(早大)。やり投界の新鋭が放った1投目が、空気を一変させた。日本歴代2位、学生新となる84m28を放ったのだ。

もう1人は男子100mで快走を連発した山縣亮太(慶大)。持ち前の加速局面と、改善した減速しない後半が冴えわたり、予選で日本人6人目の10秒0台となる10秒08(+2.0)をマーク。決勝も10秒16(±0)でまとめ、激しい代表争いの先頭に躍り出た。

織田記念では男女100mの高校新も誕生。女子100m予選1組で、11秒36(+0.6)の福島千里(北海道ハイテクAC)から大差のない2着に駆け込んだ土井杏南(埼玉栄高)が高校記録を0.01秒上回る11秒53。決勝ではさらに上をいく11秒50(+0.3)をマークした。男子は大瀬戸一馬(小倉東高)が18年ぶりの高校新となる10秒23(+1.3)を出し、決勝は山縣、江里口匡史(大阪ガス)に続く3位を占めている。

日本選手権男子やり投でディーンと村上の歴史的一戦
海老原、我孫子が日本新、「日本の顔」たちが力強く

4年前の五輪開催時はまだ中学、高校生だった世代の伸長は代表争いの激化を生み、最終選考会として開催された第96回日本選手権(6月8日~10日/大阪・長居陸上競技場)の盛り上がりに波及していく。

新旧対決の象徴は男子やり投だろう。春先に覚醒したディーン元気(早大)と、右大腿部のケガから復調してきた村上幸史(スズキ浜松AC)の対決は、ゴールデングランプリ川崎(5月6日/神奈川・等々力)での80m共演(ディーン81m43、村上80m26)を経て、日本選手権で最高潮を迎える。

村上が2投目に自らの大会記録を上回る82m93、続く3投目には、前年8月に出した自己記録(83m53)を42cm更新する83m95をもってきた。対するディーンは、2投目にセカンドベストの81m62。会場に手拍子を求めた「動」の村上と、マイペースを意識した「静」のディーン。4投目に人さし指を口に当て、静けさを求めたディーンは、音のない長居競技場の空へ84m03に達するやりを投げ込み、村上の13連覇を阻んだ。ともに大会新、日本陸上史に刻まれる名勝負である。

日本選手権やり投 ©月刊陸上競技

大会初日の男子棒高跳。その舞台に降り注いだ雨は、戦いに水を差したのか、それとも最上の演出だったのか。春先にA標準を突破した澤野大地(富士通)と、B標準突破者の山本聖途(中京大)がともに5m42を1回でクリアして1位に並ぶ。5m52から始まったジャンプオフは、どんどん強まる雨の中でどちらも10回連続で失敗。冷えた身体を奮い立たせた2人の対決は、5m17まで下がったバーを山本が制して終止符が打たれた。

男子100mは「旧」と括るには若い社会人2年目の江里口匡史(大阪ガス)が、さらに若い世代の挑戦を受けた一戦。九鬼巧(早大)には100分の1秒先着し、春に急伸して注目された山縣亮太(慶大)を3位に退けた。

男子200mは最激戦区。この決勝でA標準を突破した高瀬慧(富士通)、飯塚翔太(中大)が1、2位。A標準突破済みだった高平慎士(富士通)、齋藤仁志(サンメッセ)が3、4位。A標準突破者1人を弾き出す格好で、フルエントリーとなった。日本スプリントの充実を表す一戦である。

一方で五輪イヤーらしく、本命が「やはり」の強さを見せた大会でもある。男子では400mの金丸祐三(大塚製薬)、800mの横田真人(富士通)、400mハードルの岸本鷹幸(法大)、ハンマー投の室伏広治(ミズノ)、女子では100mハードルの木村文子(エディオン)、400mハードルの久保倉里美(新潟アルビレックスRC)は連覇を伸ばして五輪代表に。福島千里(北海道ハイテクAC)は2種目で2大会連続の五輪を決定付ける勝利。

男子10000mでは佐藤悠基(日清食品グループ)のスパートが大迫傑(早大)を置き去りに。女子5000m、10000mは時代を彩る新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)、吉川美香(パナソニック)、福士加代子(ワコール)が名勝負を展開した。

海老原有希(スズキ浜松AC)の日本新スローが大きく輝いた。静岡国際での61m14でA標準をクリア済み。1年前の不覚(2位)を胸に3投目に62m36をマークし、初の五輪切符をつかんだ。日本新はもう一つ。女子棒高跳の我孫子智美(滋賀レイクスターズ)が跳んだ4m40だ。自己記録を一気に15cmも伸ばし、前記録を6年ぶりに4cm更新するとともに、B標準をもクリア。五輪代表へジャンプアップした。

一方、400mハードルを長く牽引した為末大(CHASKI)、円盤投の連覇が10で途絶えた室伏由佳(ミズノ)が「区切り」を表明している。

ロンドン五輪は真打・室伏が銅
男子4継は入賞(4位)のバトンつなぐ

日本選手権の後にリレー3種目の五輪出場権が確定。リレー要員を加え、前大会を6名上回る46名の選手団を結成した。若手の風が吹いた五輪トライアルに比して、本番でメダル、入賞の成果を上げたのはベテラン勢が中心。唯一のメダルは、最長のキャリアを誇る男子ハンマー投の室伏広治(ミズノ)がつかみ取った。

五輪前の出場試合は日本選手権のみ。それも雨のコンディションから3投のみトライし、室伏にしてはかなり低い優勝記録(72m85)を残しただけだった。A組1位の78m48で予選通過を果たした時点で、ベテランの意図である「最短距離で目標へ」がベールを脱ぐ。

そして決勝。表彰式を挟んで1投目に臨んだところ、時間オーバーの判定。2投目に気持ちを切り替えて78m16へ。3投目の78m71で3位に浮上する。4投目以降は記録を伸ばせずメダルの色は変えられなかったが、それでも37歳にして銅メダル獲得の偉業は、何ものにも代えがたいものがある。

ロンドン五輪 室伏広治 ©月刊陸上競技


4個の入賞は、男子4×100mリレーの4位(後のドーピング違反発覚で5位から1つ繰り上がり)、男子マラソン6位の中本健太郎(安川電機)、男子50km競歩7位(3名のドーピング違反が発覚して2016年に10位から繰り上がり)の森岡紘一朗(富士通)、女子20km競歩で8位(9位から後に繰り上がり)に入った渕瀬真寿美(大塚製薬)。それぞれの分野での戦略的強化が実を結んだ。

ロンドン五輪 男子4×100mリレー ©月刊陸上競技

男子4×100mリレーは2008年北京五輪でのメダル獲得から次の時代に入り、高平慎士(富士通)が新旧時代の接続を担い、台頭する新世代の山縣亮太(慶大)、江里口匡史(大阪ガス)、飯塚翔太(中大)を吸収したメンバー構成に。

個人種目を含む大会の〝流れ〟もある。男子100mで山縣が準決勝に進出。その内容が良く、予選は自己ベストかつ五輪での日本人最高タイムとなる10秒07(+1.3)を繰り出して2着での通過。準決勝では、前半まではタイソン・ゲイ(米国)、ヨハン・ブレイク(ジャマイカ)を従える走りを見せた(10秒10/+1.7)。200mでは高瀬慧(富士通)、高平が準決勝へ。

ジャパンは好調の1走・山縣でアドバンテージを築き、磨かれたアンダーハンドパスで流れを加速させていく。個人の走力に勝るチームを抑えるパターンを作り上げた。予選は米国に次ぐ2着(38秒07)、決勝は真ん中の4レーンを堂々と走り抜き、38秒35で2大会連続メダルに迫った。高瀬は4×400mリレーに回り、柱の金丸祐三(大塚製薬)らと奮闘。極めて惜しい予選6着を後押ししている。

男子マラソンの中本は29歳。20位あたりの第3集団につけ、その集団が崩れた選手を吸収していくかたちで7位集団の中へ。最後は4位を追い上げながらの5位争いを演じ、6位に入った。

最強布陣で臨んだ50km競歩は、日本選手権覇者の山﨑勇喜(自衛隊体育学校)が失格、谷井孝行(佐川急便)が途中棄権したなか、森岡は自己記録を1分34秒短縮する日本歴代2位の3時間43分14秒。7位まで3時間40分を切る高速レースに入賞へ一歩及ばなかったと思いきや、4年後の繰り上げで2大会連続の7位入賞となった。

五輪トライアルを沸かせたディーンは日本勢28年ぶりの決勝進出を果たした。トップ8にはぎりぎり進めず10位。ディーンのほかにも入賞へあと一歩の健闘が多く、女子10000mでは新谷仁美(ユニバーサルエンターテインメント)、福士加代子(ワコール)が9、10位。女子棒高跳の我孫子智美(滋賀レイクスターズ)は予選敗退ながら4m25まで1回クリアを重ね、女子400mハードルで準決勝に進んだ久保倉里美(新潟アルビレックスRC)が見せた“前半勝負”も見どころがあった。

ロンドン五輪を終えて、桐生祥秀の登場

ロンドンから帰国したディーンは、解団式後にすぐさま渡欧。日本フィールド勢で初めてダイヤモンドリーグに参戦を果たす(10位)。

秋には未来の巨星が花火を打ち上げた。10月5日~9日に岐阜・岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われた第67回国民体育大会の少年A男子100mで、京都・洛南高2年の桐生祥秀が10秒21(+0.1)の高校新、ジュニア日本新をマーク。その1ヵ月後の11月3日に行われたエコパトラックゲームズ(静岡・小笠山総合)で、高校生初の10秒1台となる10秒19(+0.5)を打ち立てた。早くも4年後のリオデジャネイロ五輪へ向かう気流が巻き起こった。

ロードシーズンも活況

トラックの勢いはロードへもつなげられ、マラソンは男女ともに活況だった。

男子はまず、2013年2月3日の第62回別府大分毎日マラソンで川内優輝(埼玉県庁)が熱走。28km付近から繰り広げられたロンドン五輪5位の中本健太郎(安川電機)との約14kmに渡るデッドヒートを制し、2時間8分15秒の大会新で制覇した。中本も2時間8分35秒の自己新をマークしている。

2月24日の東京マラソンでは、前田和浩(九電工)が自己新の2時間8分00秒、3月3日の第68回びわ湖毎日マラソンでは藤原正和(Honda)が2時間8分51秒と、日本人トップの選手たちが次々に好タイムをマークした。

女子も1月27日の大阪国際女子マラソンで福士加代子(ワコール)が2時間24分21秒の自己新で日本人トップの2位を占め、5大会連続の世界選手権代表を初めてマラソンで確定させる。3月10日の名古屋ウィメンズマラソンでは木﨑良子(ダイハツ)が自己新の2時間23分34秒で優勝し、日本陸連が設けた「2時間23分59秒以内」の派遣設定記録をクリア。代表入りを果たした。


記事提供:月刊陸上競技